フレンチ

ad hoc
アドック

シェフ
高山  龍浩

写真:アドック

Guide

株式会社アクアプラス代表取締役
下川 直哉

幾多の渡仏歴など、ジャンルを問わない豊富な外食経験に店情報を求める経営者も多い。食文化に傾倒するうち、近年ワイン輸入業も開始。

写真:下川 直哉

トゥールモンドからアドックへ 満を持しての移転

2014年9月に福島区ほたるまちに移転した トゥールモンドの高山シェフ。店名もアドックと変更し、再スタートを切った。普段、自分の料理観や思想について多くは語らないイメージのある高山シェフ。トゥールモンドでの12年の歴史にピリオドを打ち、満を持しての移転で今、何を思い、どんな未来をみつめているのか。今回は高山シェフが「間違いなく僕の料理を一番食べたお客さんのうちの一人」と太鼓判を押す、株式会社アクアプラス代表取締役 下川直哉さんとの対談をとおして高山シェフの現在を探ってみた。

アドック高山シェフ

高山シェフが前店、トゥールモンドをオープンしたのは2002年。当初はビストロと定義されたアラカルトメニューを提供していたが、2008年、コースのみのレストランへと変化させた。下川氏はそれ以来ずっと、メニュー変更が行われる1か月半ごとにすべてのコースを食べてきているそう。

筆者「そこまで通える店には生涯そんなに何軒も出会えないものですが、高山シェフの店にそこまで通える理由はなんでしょうか?」

下川氏 「シンプルですが、まず本質的に美味しいかどうか?奇をてらったり、珍しい組み合わせに一喜一憂するのではなく本質的に美味しいかどうかが、僕がレストランを選ぶ判断基準です。かといってベタなものに走るのではなく、あくまで王道の上に個性を光らせることができるかどうか? 高山シェフは技術の基礎がしっかりできているから王道の上に個性をのせることができる料理人。」

「でも、それは誰でもできるわけではなくて、王道を目指してもほとんどの人はベタなものになるだけだし、個性を追求すれば食材の組み合わせもよくわからない目新しいだけのさほど美味しくないものになってしまう。そうじゃなくて、本当に才能がある人は個性が自然に出てくる。だから高山シェフのファンなんです。」 

下川氏

下川氏の職業はゲーム関係のサウンドクリエーターで自らも制作しつつ会社を運営し、ディレクターを務める。スタッフにもよく伝えるのはクリエーターがアーティストになる過程で個性を無理にだそうとするのは失敗につながるということ。仕事や作品として目指さなければいけないのは小手先じゃない本当の個性を王道の上にのせる、ということだそうだ。そういった下川氏の理念や人柄には高山シェフも少なからず影響をうけたそうで、下川氏の自宅のホームパーティーに招かれた際、体験した下川氏の自宅の内装や調度品のイメージを今回の移転の内装の雰囲気にも実は取り入れているとのこと。

高山シェフ 「下川氏はご自宅の調度品ひとつひとつにもこだわっていて、質問するといろんな答えが返ってくる。そういった、こだわりと本質を追及していこうとする姿勢は僕もだいぶ影響を受けています。」

「僕は別にレストラン側のことを
考えているんじゃないんです」

そんなこだわりを自らの仕事にだけでなく、外食にもみせる下川氏にはこんなエピソードがある。アドックの前身であるトゥールモンドや他のレストランに通い始めた当初は8人から12人ぐらいの仕事関係者や家族、友人たちのグループでの会食が多かった。下川氏のような経営者にとっては様々な関係者に配慮した結果、自然に集まってしまう人数である。しかし、ここ数年、高山シェフなど自分のお気に入りのレストランでは食事するときの人数を可能な限り、現在は多い時でも6人までに留めていくそう。

アドック対談

 技術が精緻を極めてきたフランス料理でも、だれでも気付くことではないが、提供人数が多くなればなるほど一皿一皿の完成度にミクロ単位の誤差が生じてくる。それは味付けのブレなどのレベルでなく、それは素材の温度だったり、ソースの濃度だったり、盛り付けのほんのわずかな差。 また、料理やワインをサーヴするホールスタッフとの連携もより複雑さを増し、料理の完成時間と口に運べるまでの時間は少しずつ開いてくる。 あるいはレストラン側に要因がなくても8人以上のグループになってくると客同士、食事中の会話にも気遣いが必要になるかもしれない。自分がホストならなおさらだろう。そして、味わうこともままならず、料理はどんどん冷めていく。

そういったことを踏まえて「そこまでレストラン側のことを考えて食事してくれるお客さんは 少ないですよね」と当方が高山シェフに言ったところ、間髪入れず下川氏が答えたのは「いや違うんです。そこまで善人じゃないです(笑)。レストラン側のことを考えているんじゃなくてシェフのその時のベストを引出し、自分が本当においしく、会話を気にしすぎることなしに食事を楽しむことができるのが6人までというのに気付いたんです。だからあくまで自分のため。」

料理写真
マナガツオとタマリンドのエッセンス

高山シェフが今目指す店づくり

しかし、人数的な会話の気遣いはさておき、グループの会食での料理やサービスの質の維持を望むなら、20席程度の小規模な個人店ではなく、マンパワーをそなえたグランメゾン系の店に行けばいいじゃないか、と唱える輩もいるだろう。

下川氏 「スタッフがたくさんいる店よりも、小バコでシェフのコントロールの効いてる店の方が好きなんです。フランスでいうならランブロアジーやアストランス。その方がシェフのコントロールがディテールまで効いていてブレも少なく感じる。」

高山シェフ

筆者「きっと下川氏のように客側にベストのコンディションをレストランに与えられ、要求されるレベルも高いと作る側も大変でしょうね?」

高山シェフ「そうですね。だから移転のタイミングで自分の料理をまた変化させることも少しは考えましたが、今は無理にそれを考えるよりも、僕だけでなく、毎日店として総合的にコンディションを整えて、あくまで今までの延長線上にある料理をきちんとお客様にブレなく提供できる店づくりをしたいと思っています。昨日はイケたけど、今日は駄目だった、という日を限りなく減らしていく。和食の店は特にそういうブレを少なく感じるんですけど僕が目指していきたいのはそういう店。そうしていくうちに料理も自然と進化していければ、と思っています。」

店内写真
アドック看板

ひとくくりにガストロノミー系フレンチといっても様々な系譜から現在の潮流に枝分かれし、ここ日本に限ってもさまざまな才能ある個性が台頭してきている。その中でフレンチの評価基準として常に存在する「個性」を求めて、シェフたちは生涯「模索」するものだと思っていた。

しかしお二人との対談を通して感じたのは、料理なら「素材」、「おいしさ」、「タイミング」、サービスなら「快適さ」、「ワインサーヴ」、「接客」等々、店づくりに関するあらゆるエレメンツの「上質な本質」を真剣に突き詰めていけば、努力により才能は磨かれ、自然に「個性」へと導かれるということ。しかしそんな「個性を通した本質」、「本質を通した個性」に気付くのも下川氏のように、ものごとの「本質」を仕事や趣味を通しながら常に探している人間のみなのかもしれない。

だからこそ、こんなお二人が日本にもっと増えれば日本のレストラン文化はもっと面白くなるだろうな、と感じた一日だった。

PHOTO by Teruo Ukita   TEXT by Masaaki Fujita

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