フレンチ

agnel d'or
アニエル ドール

シェフ
藤田   晃成

写真:アニエル ドール

Guide

フレンチ マーケット
オーナーシェフ
馬場 喜大

辻調理師専門学校 製菓を専攻。卒業後、大阪リーガロイヤルホテルを経て、東京「オテル ドゥ ミクニ」入店。6年間の分厚い修行後、神奈川県に所在する高級リゾートホテル「葉山ホテル 音羽の森」勤務を経て、2014年5月中央区瓦町に本場の香りが漂うフレンチ カフェ「フレンチ マーケット」をオープン。

写真:馬場 喜大

アニエル ドール 驚きの全面改装

アニエル ドール写真

2017年7月 改装を終え、リニューアル・オープンした靱本町のフランス料理店「アニエル ドール」。以前のカジュアルな内装を一変させ、シックな大人のためのレストランへと再出発した。オーナーシェフである藤田晃成シェフに聞けば、一度スケルトンの状態にして排水管工事からやり直したというから、今回ほぼ全く別の店を立ち上げたといっても過言でない。それにしてもオープンしてから3年少しでのフル改装というのは個人経営のオーナーシェフの店ではとても珍しい。「改装を考えている」という構想は 前々から聞いていたのだが、「まさかここまで」と正直驚いた。そこにはいったいどんな理由があるのか気になり、すぐに取材をお願いした。

そういうわけで今回のFOOD PEOPLEは、その「アニエル ドール」の藤田シェフと、最近特に刺激を与えあっているという堺筋本町にあるフレンチカフェ 「フレンチマーケット」の馬場喜大シェフとの対談をご紹介したいと思う。

馬場シェフは、ホテルを始め、「オテル・ドゥ・ミクニ」などで培った一流レストランの修行経験も生かして、フレンチトーストやフランス菓子をイートインで堪能できる大阪にはまだ少ない本格派のカフェ「フレンチマーケット」を2014年にオープンし、コアなグルメたちや近隣住民、あるいはオフィスワーカーたちで、いつも店内は賑わっている。

筆者「馬場シェフは東京など関東が修行の中心。藤田シェフは関西が修行の中心ですが、昔からのお知り合いだったのですか? 例えば学校が一緒だったとか?」

馬場シェフ「僕たちの店 両方に通って下さる共通のお客さんがいるんですけど、そのお客さんに誘われて僕が藤田シェフの店に食べに行ったことが、きっかけなんです。」

藤田シェフ「食後、そのお客さんに紹介されて馬場さんと少し会話したのをおぼえています。それからというもの、別の機会で馬場さんがうちの店に何度も食事に来てくれて・・・知らず知らずのうちに仕事や料理のことを語り合うようになりました。」

馬場シェフ「そのうち、自然に一緒に食事に行くようにも。」

筆者「まるでカップルのなれそめを聞いているような話ですね (笑)」

「世代」を意識する理由

馬場シェフ「藤田シェフは食事中もずっと料理やレストランの話ばかりですが・・(笑)。
ちょうど今、僕も自分の店のリニューアルを計画中なので、「アニエル ドール」の改装はとてもいい刺激になりました。例えばアシェット・デセール(レストランでの盛り付け・構成をはじめとする皿盛のスイーツ)も、今よりもっと充実したものを提供したいと思っているので厨房もリニューアルを機会に充実させたい。同世代ということもあってお互いに仕事の刺激を与えあっていると思います。」

筆者「藤田シェフにとってもやはり同世代というのは意識するものですか? 例えば馬場シェフとはまた違った形でのライバルがいたりとか?」

藤田シェフ写真

藤田シェフ「僕が『世代』と言われてすぐに浮かぶのが、僕らより少し上の、今ちょうど四十代の世代のシェフの方々なんです。HAJIMEの米田シェフ、ラシームの高田シェフ、和歌山オテル・ド・ヨシノの手島シェフ、東京ではフロリレージュの川手シェフ、レフェルヴェソンスの生江シェフなど錚々たるメンバーですよね。そして皆さん互いに交流し、刺激を与え合いながら切磋琢磨しているのをすごく感じる。
だからオープンして最初のころは、まずは大阪の同世代のシェフたちと交流して同じように関西のフランス料理界やガストロノミーを盛り上げていければいいな、と思っていました。けれども今の大阪には馬場シェフのように、強いモチベーションを持っているような同世代なんてなかなか見つけられないし、何人か存在したとしても、それを高い位置でキープしている人なんて、めったにいない。」

藤田シェフは1981年生まれの現在36歳。フレンチやイタリアン出身のシェフたちが独立するにあたって、一番多いぐらいの年齢層には違いない。そして10年ぐらい前まではそんな独立したばかりの若い料理人たちが、各ジャンルで自然に交流を深め、結束して、勉強会を開いたり、コラボレーションの会を頻繁に催していたのが記憶に残っている。

馬場シェフ写真

しかし最近の関西のマーケットを見てみると、「独立を果たしたフランス料理店やイタリア料理店のオーナーシェフ」というのは年々少なくなってきているように思える。その中でも専門料理の世界でガストロノミーを目指す高価格帯の店となればなおさらだ。比してワインや日本酒を軸にしたノンジャンルで料理を売る店が増えてきたし、逆に牛肉のみ、豚のみ、魚のみなどといった一部の食材に特化したメニュー構成で廉価を売りにする店も増えてきた。一昔前のビストロ・トラットリアの開店ブームも少し過ぎ去ったように思える。

またコース料理に絞ったある程度の高価格帯の店にしても、夫婦ニ人経営だったり、シェフ一人で切り盛りするカウンターのみの店だったりで、何かの発展を望むよりも自分たちのライフスタイルを自分たちのペースで追求していくタイプの店も増えてきている。

だからそういう時代の流れも働いてか否か、藤田シェフ自身が渇望するような熱意を感じさせる「同世代」の「シェフ」に出会うということは、今の時代、なかなか難しいのであろう。

藤田シェフ「業界内では以前から言われていることですが、大阪ではガストロノミーが特に根付きにくい。だから才能ある料理人が東京など他県に流出してしまっているようにも感じます。理由はいろいろあると思いますが・・・」

「でも大阪にいないんだったら東京や全国のがんばってる同世代のシェフたちから刺激をもらえばいい、と思うように少しずつなってきた。だから最近は東京にも足繫く通うようになりましたし、実際今は東京のシェフたちとの交流も増えてきました。」

料理写真
アユ、ウリ、エゴマ、レリボ

「枠組み」を超えて

馬場シェフ写真

筆者「なるほど、そういう風に全国に視野を拡げていれば今の時代いくらでも交流は可能ですもんね。世界に視野を拡げてみてもさほど難しいことではない。藤田シェフが改装を経て、今目指すのはどんなことでしょうか?」

藤田シェフ「カジュアルな以前の内装の時はいわゆるビストロミーといわれるジャンルでコスパ、コスパと、そればかりをすごく言われた。その当時は自分でもそれでよかったんですけど、少しずつ自分がやりたい料理や自分を含めスタッフの労働環境づくりにギャップが生まれてきた。僕らガストロノミーを目指している調理人の仕事っていうのは、本来技術職のはずなのに、それに対する対価がお医者さんや弁護士の方々と比べてみてもあまりにも低すぎると思うんです。労働時間だって長いですし。それに大阪は特にコスパの概念があまりにも強すぎる場所だと思います。だからレストランの価値っていうのは食事中の時間を楽しむ対価だということを伝えていきたい。」

   

筆者「コスパ重視の世界は文化・経済発展のためにもよくないでしょうしね。前述の才能ある若い料理人の流出もそういった処にも原因があるのかもしれませんね。もちろんソムリエなどのサービスの人材の流出だって同じこと。料理でいえばいかがですか? どんな料理を目指していますか?」

   

藤田シェフ「料理でいえば今は特に上の世代のトップシェフたちがみんな持っているような自分のオリジナリティをもっと追及していきたいです。いわゆる自分のスペシャリテも作りたい。そして、前まではフレンチの枠組みや伝統にこだわっていましたが、今は味噌だって使っていいんじゃないか、と思っています。」

   

藤田シェフは改装をきっかけに実は「フレンチ」という枠組みからだけでなく、「大阪」「同世代」といった枠組みから無意識下で自由になろうとしているのかもしれない。「自由にやる」ということは、どのジャンルであれ、あるいは異業種であれ、それは一部の才能ある人間の持つ特権で、才能というのはカテゴライズを望まないということである。

   

けれどもその反面、藤田シェフや馬場シェフがしっかりと意識しているのは、いずれ上の世代から渡される(あるいは奪うときだってある)であろうバトンの存在だと思う。

   
藤田シェフ・馬場シェフ写真

近い未来、必ず自分たちが受け取るという強い信念を、彼らからは感じるし、次世代に伝える意思も同時に感じる。そして、それこそが彼らのような「オーナーシェフ」という仕事の大きな役目なんだろう。

そんな役目を自覚しているフランス料理人が、日本全国にはまだまだたくさんいるのを彼らは知っているし、見つけては互いに切磋琢磨する。そうやって歴史を作ってきたのが日本のフランス料理界だということを彼らは無意識に上の世代から受け継いでいる。

そうして異国料理であろうが不景気だろうが人口減少であろうが、日本のフランス料理店というのは未来永劫、絶対になくならないんだろうなと、ふと断言してしまいたくなった。

PHOTO by Teruo Ukita   TEXT by Masaaki Fujita

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