AUPA
アウパ

　地下鉄四つ橋線「四つ橋」駅からほど近い北堀江の1丁目。飲食店の激戦区にある、スペインバル「AUPA」（アウパ）。南向きの日当たりのいいエントランスにたなびく、赤と黄色のスペインの国旗が印象的だ。アウパとは、スペインの北部バスク地方の言語で「がんばれ！」の意味。そんな、意味もあってか店内はいつも、スタッフとお客様の活気で溢れている。お店のコンセプトは「気取らない大人の社交場」で関西では岸田さんのお気に入りの一店。一見、スペインバルといえば、客の年齢層も低めで大人が使いにくいイメージも強いがここでは、コンセプトにもあるように、ゲスト同士、ゲストとスタッフも、心地よい距離感で思い思いのゆったりとした時間を過ごしているようだ。
店内は立ってもよし、座ってもよしのスタンディングカウンターと高椅子のテーブル席で、一人であれば、どこに陣取っても誰かと仲良くなれるように、また、団体でも落ちついて楽しめるように配慮されている。

　オーナーシェフの松木彰秀さんは大学のスペイン語学科出身で　卒業後、料理の道に進んだ。

　現地の生活経験も豊富で、流暢なスペイン語を操り、スペイン料理だけでなく、松木さんのスペインの文化全体に対する造詣の深さが大阪中のスペイン人たちをこの店に引き寄せているのに納得できる。
　スタッフのアンダルシア出身のスペイン人ホアキンさんもその一人。二人のスペイン語での掛け合いに岸田さんが加わって楽しそうにしているのを見ていると　ここが本当に大阪なのかと不思議な気分になってくる。取材中にも、スペイン人ではないが常連ぽい外国人が一人でふらりと食事に現れてインターナショナルな高揚感に包まれていく。

　ワインやビールの種類も多く、特にスペインの地ビールは是非ともトライしてみたい。なかなか目にする機会が少ないスペインビールのジャンルでも常時８?１０種類は準備されている。特にお勧めなのが、アルハンブラ社がコルドバで製造している「メスキータ」。コクがありしっかりとした味わい深い、赤のラガービール。これは、是非お試ししていただきたい。
　アウパの料理は松木さんが現地で習得してきた現地の郷土料理、地方料理が基礎になっている。これは現地のスペイン人もお墨付きなほど。もちろん何度も現地の家庭料理や郷土料理を味わった経験豊富な岸田さんも同感。「こればかりは、行って、食べたひとにしかわからない。」

　取材時はランチタイムでメニューの中から「パエージャランチ」をオーダー。中にはたっぷり盛られたパエージャとプライドポテト、さらに新鮮なサラダとスープと、バケットのセット。パエージャはもちろん作り立てがおすすめだが、少々時間がたっても美味しく食べられる豊富な魚介類からしみでるエキスからくるしっかりとした味付け。忙しいビジネスマンにも、手際よく　提供してくれるのが嬉しい。
　また、スペインバルといえば、やや油こく、しつこいイメージやそれを求めるゲストも多いかもしれないが、岸田さんいわく「このシンプル＆プレーン」がお気に入りだそう。これもまさに郷土料理を志向するお店のスピリッツとも言える。

　松木さんと岸田さんが特にリコメンドされたのが、フライドポテトに目玉焼きをのせたシンプルな料理。これがまさしくスペインの家庭料理であり日常食の一皿だとのこと。デイリーにスペイン料理を食する岸田さんにとって、この普遍的な味が病みつきのようで、また、スペインの経験やさまざまな思い出を引き寄せる力のある料理らしい。
　この、ポテトと卵というまったく単純な組み合わせにスペインの風土や文化を熱く語る、お二人の様子が印象的でもある。岸田さんがAupaに通い続ける理由とは、その普遍性や、デイリーに使いたくなるお店ということ。
　料理に込められた郷土と風土愛が、ゲストとのシンパシーを創出することで、様々な会話が始まる。それが、あるひとには望郷でもあり、あるひとには旅情でもある。1枚の皿に込められた想いの深さや広がりに、ゲストと店主のマリアージュもあるだろう。

PHOTO by Teruo Ukita　　　TEXT by Yusuke Kano , Masaaki Fujita