イタリアン

OSTERIA
O’GIRASOLE

オステリア オ ジラソーレ

シェフ
杉原  一禎

写真:オステリア・オ・ジラソーレ

Guide

株式会社パピーユ代表取締役
藤丸 智史

ワイン卸・小売店 ワインショップフジマルからスタートし、都市型ワイナリーとワイン食堂を併設した島之内フジマル醸造所を2013年3月にオープン、自社ワインの生産やアカデミー デュ ヴァン講師などマルチな活躍をみせる。

写真:藤丸 智史

オステリア オ ジラソーレ3度目の移転

杉原氏写真

 2014年6月にJR芦屋駅近くの大原町から同市の宮塚公園の南側に3度目の移転を果たしたオステリア オ ジラソーレの杉原一禎シェフ。店舗面積をより大きく拡げた店構えには「Sciue Sciue(シュエシュエ)」(ナポリ方言で「気楽に・素早く・簡単に」などの意味)と大きくかかれた看板がまず目に入る。その入口から中に入ると立ち飲みのバール&テイクアウト可能なイタリア総菜屋(ロスティッチェリーア)&イタリア菓子屋(パスティッチェリーア)となっていて、ナポリやソレント近郊の海辺のリストランテで計4年余 修行行脚した厚みのある南イタリア料理の体現者である杉原シェフのトータルな世界観をカジュアルに味わうことができる。

そして入口から見て 左手奥はリストランテのメインダイニング。席数などは移転前とさほど変わらないが、メインダイニングの天井には大きな木の梁が張り渡されて、梁と梁の間から間接照明の柔らかい光がフロアに落とされ、以前の店よりシックで落ち着いた印象をうける。

それぞれの独立から発展へ

今回は久しぶりに杉原シェフの料理を食べるという藤丸氏。

筆者「藤丸氏はレストランのサービスからキャリアをスタートされたと聞いてます。ジラソーレの杉原シェフとは仕事を通じての旧知の間柄なのですか?」

藤丸氏「違いますよ。僕がまだ西宮市の飲食店でソムリエとして働いていたころ、杉原さんの店に客として食べに行ったのが始まりです。当時はまだ今回の移転の前の前、阪神打出駅の近くに店をかまえていらっしゃった時でした。」

杉原シェフが独立を果したのは2002年。同じ芦屋市の阪神打出駅から徒歩15分ほどかかる住宅街のマンションの一階に10席少々の小さなレストランを始めたのがスタートだった。
当時からナポリや南イタリア料理をテーマにかかげ、現地の経験を活かした今のイタリアンの地方・郷土料理ブームの先駆けとしてその名を全国の食通や業界の人間たちに轟かせ、以来10年以上常に業界を牽引してきた。

一方の藤丸氏も2006年 大阪の黒門市場の賑わいから少々はずれた裏通りにワインショップを開店させる。今は完全に定着したが、当時はまだ市民権を得るには程遠かった自然派のワインを中心に、こだわりのワインをラインアップした業務用卸が中心の 小さな倉庫のような店で、一般の客が地図を見ても簡単にはたどり着けないような場所だった。しかしそこからレストランのソムリエ時代に築いた大阪のコアな飲食業界のネットワーク藤丸氏写真と、ソムリエならではの現場に基づいた豊富な商品知識を活かした営業活動、社内に集まった同じくレストラン出身のスタッフと共に、昼夜問わない勤務努力などを活かして 一気に事業内容を拡大させていく。最近では大阪島之内に都市型ワイン醸造所とワイン食堂を併設した施設を作るなど、国内のワイン文化発展に大きく寄与する組織に発展しようとしている。

藤丸氏「イタリアンをうたっている店はたくさんありますが、杉原さんほどイタリアの一つの地方に特化して、しかも料理のレベルが高い店は現在も本当に少ない。そして当時から現在までずっと一貫したナポリ料理・南イタリア文化の啓蒙者として、杉原さんの継続力や信念を感じる仕事ぶりは意識せざるをえませんでした。」

杉原氏「いえいえ、僕も独立してから当初は色々な料理をつくりながら暗中模索していたんですよ。でも、お客さんの反応が一番よかったのは 結局、自分がみっちり現地で体験してきたナポリや南イタリアの料理。それならこの道でいこうと。」

料理写真
蒸しアナゴとフレッシュポルチーニのズッパ ガットディパターテ添え

人が集まってしかできないやりたいこと、
表現したいことが今はある

店内写真

この日のコースではタコの煮込みやチーズを挟んだ子羊のカツレツなど、定番にみえても決して「ナポリ料理」と ひとくくりに出来ない 移転をしながらジラソーレで10年以上にわたって深化してきた歴史を味わえる 技術や想いのこもった「杉原シェフのナポリ料理」であった。

そしてそのコースとは別に もう一品いただいたのが「蒸しアナゴとフレッシュポルチーニのズッパ  ガットディパターテ添え」。ふっくらとした穴子と風味豊かなとろりとしたポルチーニのスープに まず心惹かれて、その美味しさに心が躍るが、脇役のように存在すると思っていたチーズやハム類を使ったナポリに伝わるジャガイモのオーブン焼きが、穴子やポルチーニに決して負けず劣らず、それらと共に完璧な調和で口の中で一体化していく。そうして一皿食べ終わると穴子とポルチーニが主役の料理かと思わせて、このナポリの素朴なジャガイモ料理の存在が 完全にこの料理の舞台骨を構成しているのに気付かされる。

そして巷に溢れかえってしまった地方料理・郷土料理をテーマに掲げる他のイタリアンと比して杉原シェフの店が地方料理の継承者としても新しいイタリア料理の創造者としても、何歩も先を歩いていることを再認識できる。

杉原シェフ「バールや総菜屋、イタリア菓子屋を併設させて規模を増やして移転をした理由の一つはスタッフをできる限り増やして組織づくりをしていきたかったのもあるんです。人が集まってしかできない やりたいこと、表現したいことが今はある。それは経営的にも」

料理写真 料理写真

新しい世代が目指す仕事のかたち

杉原氏写真

ワイン文化を軸に様々な業種で、津々浦々・縦横無尽に展開をみせる経営者と、パティスリーやバールなどの業態の併設をしながらも 自分の目を厨房やフロアへ常に光らしながら 一処(ひとところ)で彼の地の食文化を体現しようと奮闘する料理人。

一見、まったく対照的にみえる二人の仕事だが、自分の若き時代に体験した食文化に対する敬意や憧憬に根差したワイン文化やナポリ文化の発信・啓蒙をこころみながら、その眼は未来に向けた新しい日本型食文化の創造や業界の経営の在り方を確立させようと試みている点で実は同じなのかもしれない。それは一昔前に流行ったオーナーシェフのやみくもにカジュアル・ディフュージョン化させた多店舗展開とは明らかに目指しているものが違うように思える。もちろん杉原氏の店づくりや料理もさることながら、そのことに気付いている藤丸氏が自身の仕事の流儀に重ね合わせ、杉原氏という料理人にずっと着眼している理由なのだろう。

PHOTO by Teruo Ukita   TEXT by Masaaki Fujita

OSTERIA O’GIRASOLE

〒659-0062 兵庫県芦屋市宮塚町15-6
TEL:0797-35-0847
ランチ 11:30~15:00(L.O.)
ディナー 18:00~22:00(L.O.)
水曜休み