15年以上続く心斎橋の老舗 バル
1980年代後半から90年代前半にかけて一世を風靡した鰻谷エリア。数々のお洒落なカフェバーが集積し、バブルの勢いもあってか多くの人が訪れ、賑わった。それから約30年弱。様々な業態の店の栄枯盛衰を経て今に至る。その鰻谷エリアで1998年から営業しているのがスペインバル「バー・ヘミングウェイ」。
以前は現在の店舗からやや西への三休橋付近のビルの6階にあったが2012年に現在の場所に移転した。以前のバーっぽさは少し薄れ、よりスペイン バルに。オーナーの松野直矢さんはシニアソムリエで、ベネシアンドールのサービスを目の前でしてもらえるシェリー酒のプロフェッショナル。店内には調度品やポスターなど、毎年のように行く松野さんのスペインへのこだわりや愛情が垣間見られるもの隅々にまで満ち溢れ、その一つ一つに質問を投げかけてみても丁寧に解答してくれる。
松野さんのトレードマークのような白いジャケットにネクタイというヨーロッパのオーセンティックなサービスマンスタイルが印象深いが決して堅苦しい雰囲気ではなく、店内には、小さなテレビも設置。普段は本国スペインのテレビ番組を流していて、それは単にカジュアルというよりもスペインの観光地エリアにはない地元の人間が通うような温かみのある落ち着いた空気感が店内に流れている。
ここまでが一見さんや、ガイド本に書かれるバー ヘミングウェイの一般の紹介文だろう。しかしここからくりだされる岸田さんが感じているバー ヘミングウェイの魅力はひと味もふた味も違っていた。
「バー・ヘミングウェイからスペインを感じるのは
もっと別のところにあるんです」
岸田さん曰く、日曜日の午後のバー・ヘミングウェイのテレビには競馬の実況中継が流れているらしい。購入した馬券をカウンターに置いて シェリーやワインを片手にヨタ話を繰り広げながらテレビに釘付けになるオヤジ達。客たちと一喜一憂し、ボヤキや笑みを浮かべる店主。
そして深夜になれば、ある日というか、しょっちゅうらしいが、昭和歌謡をBGMに店が跳ねまくって(盛り上がって)いるらしい。吉田拓郎、ショーケン、柳ジョージなど、もはやスペインもへったくれもないが、客が一体となって歌い声や笑い声が渦巻く店内。
そんな松野さんを中心に包み込まれた気取りがなくて熱くて、人情味のあるバー・ヘミングウェイの空気感こそが岸田さんにとっての本当の意味でのスペインバルだそう。
また岸田さんがよく来阪したスペイン人の案内役として数々のスペイン レストラン・バルに帯同した後、最後に連れていくのがバー ヘミングウェイ。移動や大阪の喧騒に少し疲れていたスペイン人もここに来ると必ず元気になるのだそうだ。
現地のスペイン人も圧倒するほどスペイン語を捲し立て、確かなサービス技術をもって接客をこなす松野さんにテンションが上がるスペイン人たち。そしてバー・ヘミングウェイのトイレのドアに張られた松野さんが撮ってきたスペインの現地の友人たちや来阪したワイン生産者と共に写った数々の写真やサインの中に共通の友人や知り合いを見つけたとき、彼らの喜びはマックスになるらしい。そこからまた盛り上がる松野さんとの会話。
岸田さん 「だから松野さん自身がやっぱりスペインなんです」
バルであり、バー。
松野さんからしみででくる人間味が店を作る
岸田さんはワイン会やイベントの参加も交えながら、かれこれ もう10年来の間柄だそうだ。
だから店が終わって一軒、二軒付き合うこともしばしば。
朝まで何軒もハシゴすることもよくあったそうで、酒を交わし、スペインを語らうのはもちろんだが、それ以外にも、その店の先々でそれぞれの店主たちの話に耳を傾けながらその店の世界を大いに楽しむのだそう。そんな話を聞いているとお二人とも飲食店やそこで働く人々を愛し、居心地の良さや楽しさを心底感じているのがよくわかる。松野さん自身にスペイン愛以上に感じるのはレストランやバー、居酒屋などジャンルを問わない業界愛。
さまざまな逸話を聞きながら感じたのは松野さんの温かい人間味あふれる屈託のない業界人たちとの関係だ。呑み先でたまには長居してしまい、疎んじられてしまうかもしれないが、認めざるを得ない プロのサービスマンとしての業績と愛さざるを得ない人間味。
取材での岸田さんの言葉がバー・ヘミングウェイの魅力をすべて表していたような気がする。
「だから やっぱり松野さんは松野さんなんです」
それを聞いたとき、普通バルではあまり見ないような気がしていた松野さんの白いジャケットが本当に素敵に思えた。
PHOTO by Teruo Ukita TEXT by Masaaki Fujita
Bar Hemingway
〒542-0083
大阪市中央区東心斎橋1-13-1 伊藤ビル 1F
TEL:06-6282-0205
営業時間 15:00~24:00(L.O.)
不定休