FP/09

イエロードッグスタジオ
グラフィックデザイナー
立花 幹也

graphic designer
Mikiya Tachibana

イエロードッグスタジオを主催するグラフィックデザイナー。タイポグラフィーを主とした表現で、ロゴデザインやパッケージデザインを中心に活動している。東北パッケージ展審査員賞、優秀賞ノミネート。JAGDA、JTA など入選数多数。日本グラフィックデザイナー協会会員。

中華料理

茉莉花
ジャスミン

 

本日は京都宇治に所在する茉莉花(ジャスミン)という薬膳料理店にお邪魔した。紹介していただいたのはイエロードッグスタジオを主催するグラフィックデザイナーの立花幹也さん。今回は営業時間中で茉莉花(以下ジャスミン)のお料理を実際に頂きながらの対談インタビューとさせていただいた。

立花さんとジャスミンの料理長である程 樹民さんのお付き合いは実に15年近くになるそうだ。とはいえ、ジャスミンがオープンしたのは2008年。しかもそれ以前の交友関係は職業=料理人としての程さんとではない、ということで俄然興味がわいてくる。

程さんは京都宇治でジャスミンをオープンする前、大阪市内で整体院をしていた。それが15年近く前のことらしい。程さんと立花さんのお付き合いはそのころに始まり、立花さんの仕事の得意先でマネージャーとして働いていた今は程さんの奥さんである裕子さんに「凄い中医師がいる!」と紹介されたことがそのきっかけということだ。

しかも、その整体院の場所が偶然にも立花さんの事務所の近く。すぐに程さんと意気投合した立花さんは来日以前に上海市の太極拳気功治療推進協会理事でもあった程さんに太極拳を教わっていた時期もあるらしい。

施術室をキッチンに変えて

立花さんから聞いた、大阪での程さんの逸話はたくさんあったのだが、特に興味深かったのが、グラフィックデザイナーである立花さんが程さんの整体院の看板のつくり替えを手伝ったときのエピソード。

立花さん「当時の整体院の看板なのですが、あまりにも中国色の強い、怪しぃ~雰囲気の看板だったので、『日本人は怖くて誰も入れないので は?』と先生に提案してね(笑)。ロゴをデザインして親しみやすい看板につくり替えたわけです。
その看板のお礼が、先生お手製の料理だったんです。先生は狭い施術室をキッチンに変え、ジャーポットでは中華粥を、炊飯器では鶏の煮込み料理など、工夫を凝らした様々な料理をふるまってくれました。まともな調理器具は簡易コンロひとつだけですよ。生きている渡り蟹を目の前で捌きだしたときには驚きました。そして完成した料理が並べられたテーブルは、クロスを引いた整体の施術台だったのです。そんな先生のおもてなしをみて、『凄いな、この人』って思った。全然かっこよくないのかもしれないけど、誠意を尽くし、全力ですべてのことをやり尽くした〈おもてなし〉がそのテーブルの上にはあった。それは紛れもなく誰をも笑顔にする満漢全席だったんです。」

筆者「それは凄いですね。人柄も感じるし聞いているだけで程先生の躍動感やバイタリティーが伝わってきます。そもそも自分が生まれた国以外の土地で働き、生活を営むということ自体、ものすごくバイタリティーが必要なことだとは思いますが、程さんが来日されたのはいつ頃のことでしょうか?」

程さん「私たちは1966 年に中国で始まった文化大革命のいわゆる鎖国政策のあいだは国から出られなかったからね。そしてその文化大革命の終焉後の開放政策によって、自由に海外に渡航できるようになってから、ものすごく外の世界を見たくなった。そして、最初はアメリカに行きたかったけど、なかなかビザが下りなかった。だからまずは、おとなりの日本に行ってみようと思って。」

立花さん「先生は中国上海でホーロー工場を経営する裕福な家庭に生まれ育ったんですが、その文化大革命の影響で財産はほぼ没収され、父親や兄弟は強制的に地方へ労働に駆り出されたそうなんです。そして家に残ったのは先生とおばあちゃんだけ。そのおばあちゃんに料理を教わりながら先生が家族の料理を作っていたということです。だからおばあちゃんの故郷である蘇州の家庭料理が先生の料理のベースで、どこかの料理人に教わったわけでも料理店に修行に出たわけでもないんですよ。」

筆者「程先生についてむちゃくちゃお詳しいですね。」

立花さん「先生と呑みながら一緒にご飯を食べていると、そういう話がどんどん出てくるんです。僕は別にあちこちの店の店主を捕まえて呑みに行くのが趣味とかではないんですけど、先生は僕と同じで本当に食いしん坊だし、ものすごいパワーの持ち主。一緒にいるだけで元気になれるし、それが料理の中にも表現されているのです。」

料理写真

おばんざい薬膳

筆者「確かに程先生の隣にいると1954生まれという御年齢からは想像もつかないような活力を感じます。ジャスミンの料理のテーマは「薬食同源(医食同源)」と「身土不二」の考えを基にした「おばんざい薬膳」とのことですが、その効果を体現されているのがまさに程さんご自身ということなんでしょうね。」

 

「薬食同源(医食同源)」とは、生命の源は食にあり、食を誤れば病いにおちいるし、食が正しければ病いは自然と癒えるというもので、食べることと薬(生薬)を飲むこと(医療)は本質的な区別はなく、同じことであるということ。
また「身土不二」というのは、身体と風土とは切り離すことが不可能で、その土地の旬の食材を食べることが心身を養うのに、最も適しているという考えである。

立花さん「ですから、先生の店では、季節の食材に含まれる薬効を重視した料理を摂取することが健康につながっていくという薬膳料理と、先生ご夫婦の大切な家族や友人に手料理をふるまっているかのような家族愛を感じることができる手料理=おばんざいを味わえる。だからまさに、おばんざい薬膳なんです。」

立花さんは、父親の叔父にあたるいわゆる大叔父が大徳寺の和尚さんだったこともあり精進料理にも子供のころから慣れ親しんだ。今回の取材でちょうど相席していた奥さんと最初にデートしたのは神戸の伝説の名店ジャンムーランだったそうで、フォアグラを穴子で巻いた美木シェフのスペシャリテの一つが大好きだったことなど、ジャンルを問わない様々な名店の話が途切れなく湧いてくる。

けれども、そんな立花さんをして、「無類の食いしん坊」と言わせる程さんのまっすぐな食への好奇心と欲求の発露は、程さんの周りにいるどんな人たちにも食事することの楽しさを気付かせて くれるし、程さんが持っているような大陸的でプリミティブな生き方や感性は今の日本人には特に 足りていない要素なのではないだろうか?というような一考をどこかに呈してみたくなってくる。

いちばんの親友

もともと中国上海市で漢方医でもあった程さんが日本に訪れ、東京を経たのち大阪で整体院を開業し、奥さんである裕子さんと出会い、京都宇治で料理店を営む。よく料理は人だというが、ジャスミンの料理はそんな程さん夫妻の人生が凝縮されている。隅々に心遣いを感じる店全体のコーディネイトやプロデュース力にはセンスという枠だけでは収められない裕子さんの仕事に対する情熱や努力やプロフェッショナリズムを感じるし、ジャスミンという店に日本らしい繊細で柔らかな空気をもたらしている。

 

そして仕事もひと段落して、途中から加わった程さん御夫婦と立花さん御夫婦の歓談を聞きながら思うのは、こんなにも客と店主が混じり合い仲良くなれるものかということだ。15年近くの知古の間柄とはいえ、スタートはやっぱり整体師と患者(客)であることには変わりない。しかし、今ではまるで家族のような屈託無い談笑が昔話も交えながら延々と続いている。
立花さんが親しみと尊敬の念を込めて程さんのことを「先生」と呼ぶ理由がわかるような人生経験豊かな程さんの博識とバイタリティー。うまい紹興酒をいただきながら、御本人も来店されてジャスミンでライブも行った シンガーソングライター “ううじん” さんの心地よい歌声と旋律がBGMとして背後に流れ、ほろ酔いの私たちの会話にまろやかに溶け込んでいく。暖かく灯る店の照明が心地良い。

「先生にとって立花さんはどういうお客さんですか?」

「お客さんじゃないよー。友達。いちばんの親友!」

「先生のいちばんの親友は中国にたくさんいるから!(笑)」

客とこんな素敵な関係性を築き上げることができたレストランは日本にいったい、いくつあるのだろうか?

夕方に開始した食事も 楽しすぎたせいか、気が付くと「少し御迷惑をおかけしたかな」と思うような時間帯に差し掛かかってしまい、いくぶん反省混じりの帰路の途中、そんなことも考えてみた。

PHOTO by Teruo Ukita   TEXT by Masaaki Fujita

茉莉花

〒611-0021
京都府宇治市宇治妙楽169−7
TEL:0774-23-3753
ランチ 12:00 ~ 15:00 (L.0.14:00)
*ご予約優先
ディナー  18:00 ~ 21:30 (L.O.19:30)
*ご予約のみ
月曜・火曜休み