FP/05

料理長
手島 純也

chef
Junya Tejima

フレンチの巨匠・吉野建氏が手がける和歌山オテル ド ヨシノ料理長。クラシックフレンチを自らの感性と、培った技術で昇華し続けるその手腕に、今や日本全国から食通たちが集まってくる。フランスや日本全国でのこだわりを持ったその食歴は自らの皿の上に厚みを持たせ、シェフとのレストラン話を楽しみに来るファンも数知れず。

フレンチ

La Cime
ラ シーム

手島シェフとレストラン「ラ シーム」

ラ シーム写真

今回取材に協力していただいたのは、和歌山のフレンチ、「オテル ド ヨシノ」料理長、手島純也シェフ。以前、レストランのシェフとして取材をさせていただいたが、今回は食べ手として登場していただいた。自身がよく通っている店として推挙していただいたのは、大阪本町のフレンチ レストラン「ラ シーム」。ランチをしながらではあるが、3時間半にわたるロングインタヴューになった。

筆者「ラ シームに最初に食べに来たのは?」

手島シェフ「ラ シームがオープンして間もなくです。僕が持っていた情報としては、フランスのレストランの中でも特に好きだった、ヤニック アレノ時代のムーリス出身というのを雑誌で読んだぐらい。だから、ある程度の期待感を最初から持って来たとはいえ、ほぼ先入観なしの白紙状態で来ました。」

「そして実際食事をしてみると、そのころ(オープン直後)ラ シームはフランスの地方料理をテーマにランチのコースを組み立てていましたが、その中にあった『プーレ オ ヴィネグル(若鶏のヴィネガー風味)』がピカイチで、フランスの都市リヨンの伝統料理を彼のセンスで現代風に仕立てていた。そこに明らかに『自分にないもの』をはっきりと感じたので、通うようになったんです。」

 クラシック料理の昇華を標榜し、自らのアイデンティティとして目指す方向性をしっかりと確立させている手島シェフ。したがって、食事もどちらかというと同じ方向性をもったシェフの店に行くことが多いのかと思いきや、決してそうではなく、自分の料理との「異質性」というのが通う店のキーワードにあるらしい。そこには例えば同じ方向性をもった自分と同じか、若い料理人の店だったら「俺が作った方が絶対うまい」というプロとしての自負もあるのだろう。だからどうせ自腹をきって食事に行くなら自分とカラーの違う料理を出す店やタイプの違う料理人の店に行く方が、より刺激的に感じるそうだ。

手島シェフ、食べ歩きの原点

手島純也シェフは18歳で高校を卒業し、「料理学校にいく学費もなかったので」まだインターネットもさほど普及していない情報のない時代、地元山梨県の電話帳に記載されているフランス料理店に、片っ端から就職希望の電話をかけていった。
その中で「じゃあ、来てみるか?」と言われたのが山梨では老舗の、県内で数少ないフランス帰りのシェフがいる店だった。しかもシェフの奥さんはフランス人。幸運にも最初の修行先からフランス文化を身近に感じることができる環境で料理人人生をスタートすることができた。

筆者「そこから順風満帆に・・」

手島シェフ「逆です。自分が本当に不器用だということを、仕事を通じて痛感させられました。ほぼ同期入店の料理人がいたんですが、自分より手先が器用だし、要領がいいから仕事も圧倒的に早い。自分が一人前になるには他人より圧倒的な努力が必要だということが、すぐにわかりました。だから、今の店のスタッフにもよく言うんですが、才能あるやつが仕事を一回でできたとしても、才能ないやつが100回努力してできるようになったら結果は同じだ、ということ。だから僕は、仕事はもちろん人一倍努力しましたけど、休みの日も毎週のごとく勉強のために東京のフレンチなどに通い外食を重ねました。だから同世代の料理人の誰よりも国内のフレンチを食べている自負があります。」

調理中写真
高田シェフ写真

「だからこそ、高田シェフに対しては明らかに僕が今まで出会ってきた日本のフランス料理人とは何かが違う、という異質性さえ、感じてしまう。」

筆者「それはどういう点で?」

手島シェフ「料理人は2通りあって、他のジャンルの作り手もそうなんでしょうけど、ひとつは優れたアレンジャーの人。本家あるいは修行先の料理や作品を上手く吸収して新しいものを作っていくタイプです。ほとんどの料理人はこっちのタイプ。」

「もうひとつは創造主です。高田シェフは明らかにこちら側に属するタイプの料理人だと認めざるを得ない。彼はもともと技術力もあるんですけど、彼の料理を創る発想自体が他人の料理や食べ歩きの経験から来ているものではないのを感じるんです。そんな料理人はめったにいない。」

筆者「手島シェフも同じく料理の創造主として独創性あふれた一皿を生み出そうと思うこともあるのでしょうか?今は歴史的に見ても、ガストロノミーの世界において、こちらの潮流が強まっているように思われます。」

手島シェフ「んー、最近思っているのは自分の目指す位置は何かというとフランス料理の担い手としてレベルの高い何代目かになれればいい、ということです。」

筆者「それは吉野組(吉野建シェフ率いるタテル ヨシノ グループ)としての、ですか?」

手島シェフ「いや、そうではなく、ここ日本で脈々と発展し、受け継がれてきている日本のフランス料理界のレベルが高い料理人の中での何代目かという意味です。柔道や剣道でもあると思うんですが、まず、ある流派の創始者という人がいて、その人は間違いなくすごい人。そしてその人の技や意志を受け継ぐ何代目っていう人々が代々といて、時には少しすたれかける時代もある。そして、そういった長い時代の中には『中興の祖』って言われるような伝統競技をさらに高いものに引っ張り上げるような人が、ときに現れる。フランス料理という、ある種、伝統競技の中で、あとあと、そういうふうに評価されるような料理人になりたいと思って、今は研鑽しているところです。

料理写真
Artichauts a la barigoule アーティーチョークとフォワグラのファルシ トリュフ風味

二人が語るレストランと客との関係性

ここで料理を作り終えた高田シェフ登場。

筆者「ところで手島シェフといえば、いつも何かしらメッセージがプリントされたTシャツを着ているイメージが強いですが、今日はシャツにジャケット・・。やはり取材を意識して?(笑)」

 
手島シェフ写真

手島シェフ「違いますよ。僕はグランメゾンや、ある程度いいレストランに行くときは Tシャツは着ないでスーツやジャケットです。日本人は肩苦しいと、とらえがちなんですが、やはりレストランに行くときはドレスコードっていうよりも美意識の問題として、お洒落とか装いの楽しみも含めて食事の時間を満喫して欲しいと思っています。東京にはまだそういった文化がある。」

「そして若い料理人もそういったところにもっと気を配って欲しい。自分たち作り手が担い手として率先していくぐらいじゃないと、食べ手にも絶対伝わらないし、文化として根付かないから。そして、そうした文化も含めて最初はただ『勉強のため』、と思っていたレストラン通いが、次第にレストランで食事をし、会話しながら時間を過ごすこと自体に、僕は心の底から大好きになったんです。」

筆者「そういうところにヨーロッパのレストランでの食事の楽しみ方にまだまだ差を感じる、と。」

手島シェフ「高田シェフや関西なら和歌山のアイーダ 小林シェフなどは仕事的にはもう世界基準に入っているし、世界と対等に戦える実力の持ち主。でも食べ手のほとんどはそうじゃないから、そこにまだまだギャップが生じている。」

筆者「高田シェフにお聞きしますが、食べ手の感受性をもっと上げてほしいと思うことはありますか?」

高田シェフ「いや、それは別に思わないですよ。自分で食べて、おいしいと思えればそれでオーケー。ただ食べ手に合わせた料理、というのは常に意識しています。例えば手島シェフの味のストライクゾーンはわかるから、そこにわずかにアジャストしていく。」

筆者「そこに至るまでのレストランに通う実回数や店のシェフやスタッフとのコミュニケーションが大切なのがよくわかります。ただ黙って食べていても最高のサービスは得られない。かといって、傲慢不遜で一方的に願望のみを要求するのではなく、店のやりたいことや、売り上げを尊重しながら、どの着地点に店と客とのベストがあるのか、通いながら見極めていく。」

高田シェフ写真

高田シェフ「僕も理想は『ただ食べておいしい』っていうシンプルな店が理想です。自分もそういう店に行きたいし。でも、それを狙って最初は『ネオ ビストロ』とカテゴライズされるようなクロスを敷かない長テーブルも置いて相席も案内するような形態にしたらイマイチ反応が悪かった。料理だけでお客さんを満足させるっていうのがすごく難しいというのに気付かされたし、今『予約が取れない店』っていうのも『味』だけが理由じゃないのが分かって来て、今の店づくりがあります。」

手島シェフ「大阪にネオ ビストロなんてジャンルはまだ時期早々だって、俺ずっと言ってたじゃん。」

このあとも2人の会話はまだまだ続くのだが、今回の対談を通して気付かされるのはクラシック料理から来るイメージからか、理論派一辺倒に見えていた手島シェフが、高田シェフに負けず劣らず、フランス料理の作り手としても、食べ手としても豊かな感性に満ち溢れた料理人だということ。また2人ともしっかりとした職人であるのにもかかわらず、雄弁であり、一昔前の職人=無口というイメージからは程遠い。さまざまな業界内の課題点や、日本あるいは関西の外食文化発展への願いを通じて、自分たちが黙っていては何も変わらないということを自任しているからであろう。そして日本のフランス料理を確実に何段階か引き上げるであろう2人の料理人が延々と歓談しているのを聞いていると、今、日本のフランス料理界は何度目かの黄金期に来ているのではないか、と確信できた。

PHOTO by Teruo Ukita   TEXT by Masaaki Fujita

La Cime

〒541-0048
大阪府大阪市中央区瓦町3-2-15 本町河野ビル1F
TEL:06-6222-2010
ランチ 12:00~15:30 (L.O.13:00)
ディナー 18:30~23:30 (L.O.20:00)
日曜日定休(祝日不定休)