FP/06

ワイン ソムリエール
RICO

wine sommelière
RICO

大阪本町のワインバーKIFF(キフ)店主を経て2016 年よりワインショップ(酒)ましかにて勤務。感性とワイン愛あふれるワインセレクトにファンも多い。

フレンチ

La Kanro
ラ カンロ

「何この人?」っていうところからのスタートです。

北新地から老松町、西天満、天神橋筋商店街といえば大阪でも屈指の飲食店密集地帯である。しかしそこからさらに東へ天満宮を抜けて歩いていくと突然、比較的小規模な企業や個人店が立ち並ぶ、およそ商業エリアとは言えないような、人通りや車の往来もさほどない、少し落ち着いた区画に入っていく。ラ カンロは、そんな駅からも少し歩いていかなければたどり着けないような東天満の小さな路地にひっそりと佇む。

ラ カンロ仲嶺シェフ

 店は2013年11月オープン。ラ カンロのシェフ、仲嶺氏はパリのアストランス等、国内外での一流店の修行経験を活かしながらも、塩を極力控えて素材そのものの味わいを引き出したり、クラシックなフランス料理の食材の組み合わせからインスパイアした意外性のある食材の組み合わせにチャレンジしながら、オリジナリティ溢れる料理を生み出す。
そして新進気鋭の器作家の作品を用いた繊細な盛り付けなども手伝って、ラ カンロは東京や大阪のめざとい食通たち間で瞬く間に話題の店にのぼった。

以来、毎月変わるコース料理や、ワインや茶葉の個性に応じてグラスを使い分けるといったきめ細かなサービスを通じて、感度の鋭い顧客たちを魅了しつづけている。

今回はそんなラ カンロの顧客の中から、大阪本町の元ワインバーKIFF店主で、現在はワインショップ(酒)ましかにて仕入れや企画運営を担当するワイン ソムリエールのりこさんに登場していただいた。

RICO女史とラ カンロ仲嶺シェフ

 りこ女史 「私がラ カンロに最初に来た時に、フォアグラ入りの野菜スープを仲嶺さんにサーブされたときに『塩を一切使っていません』って言われて・・・・『何?この人?』っていうところからのスタートなんです。仲嶺さんとは知り合いでもなくて、店の情報もほとんどなかったので余計に・・・『何?この人??笑』。」

 筆者「『何?この料理』じゃなくて『何?この人?』なんですね?笑。でも確かに仲嶺氏のオーラには、この人どういう人なんだろう?って感じさせる何かがある・・笑。今までのフレンチのシェフには絶対いなかったような・・」

ラ カンロのワイン

 りこ女史「私はワインにたずさわる仕事をしているけれどもワイン造りをしているわけじゃないからゼロから作品を作りだすことはできない。けれども、ワインバーにおけるワインセレクトのように自分の琴線に触れるものを集めたり、見たり、傍にいるのが好きなんです。だから仲嶺さんの周りにあるものや彼自身のクセや『何か』が私の『変態センサー?笑』に引っかかる。だからラ カンロがすぐに好きになりました。」
  「料理は人」とよく言われるが、ラ カンロで食事をするとまずそれを感じる。フランス料理の技術や枠組みを踏襲しながらも時に堂々 と逸脱してしまう感性溢れる素晴らしい料理に対峙したあと、コックコートも着ずにカジュアルな装いでキッチンから飄々とカウンター越しに現れる仲嶺氏を見ると自分が今まで持っていた「名店」に対する「セオリー」のようなものが瞬く間に崩れ去るのを感じる。決してイヤな感覚ではなく、新しい世界や価値観に出会えたような喜びだ。例えば今までタイプだと思っていた女性像とは全く違う枠組みで生きている素敵な女性に出会う衝撃。所詮、異性のタイプなんていうものは自分の小さな経験の中でしか作れないものだということにその時、初めて気づかされる。

 筆者「ただ、不特定多数を相手にしたり、ある年齢層や所得層をマーケティングしたような飲食店、流行の店や料理をほとんどコピーしたような店とは違って、仲嶺さんの料理やラ カンロに流れる美的感覚はある種のカルチャーや知識を踏まえないとその醍醐味を100%理解できないような空気感や敷居みたいなのもあるのでは?」

 仲嶺氏「別にマニアックな店を目指しているわけではないんです。よく飲食業の同業者の人たちでさえ、『マニアックな店つくりましたね』って帰っていくけど、自分的に今の店のスタイルは京都や大阪、フランスをはじめとして、世の中の一流といわれている店に修行中に通い続け、独立にあたって自分が行きたくなる店を総合的に考えた結果です。そのためには胃がもたれるような塩気の強い重い料理は避けたいし、料理ばかりでなく内装や調度品、器やグラスにも気を配り良質なものを揃えたい。和食の世界では当たり前のことです。

料理写真
フォアグラとスッポン

「大阪は実は結構保守的な街だと思う」

 仲嶺氏「だから和食の世界は好きで京都にもよく行きます。でも、料理人として自分の中で染み付いているのはやっぱりフレンチ。だからラ カンロは大阪で和食とか寿司が好きな方々がクラシックなフレンチへも通うようになる橋渡し的な入口になれればと思っているんです。それぐらい今の大阪は高級店の世界での和食と西洋料理の顧客の行き交いは少ないと思っています。どこか閉鎖的で、大阪は食の都とか言われているけれども外食に関しては実は結構保守的な街だと思っています。それに、どうしても食べものばかりに目がいくのが大阪じゃないでしょうか?

 仲嶺氏と話してみて思うのは、仲嶺氏がラ カンロを通して表現しているのは前衛でもなければ、アバンギャルドでもない。各々の感性や個性を皿にのせて表現するというフレンチでは至極真っ当な行為が、皿の上だけにとどまり切れずに、内装やカトラリー、グラスや調度品にいたる隅々にまで行き渡ったのが ラ カンロというのがよくわかる。それは和食やフランス語でいうところのhaute(高品位・高級な)の世界では至極当たり前のことなのではないだろうか?
大阪人を形容する上でしばしば言われるような実質本位至上主義的商人発想のままでは一生楽しめない世界は確実にある。

ワイン ソムリエールRICO女史

 「私は何がアバンギャルドかっていうのはわかってないかもしれないけれど、ラ カンロが持っている繊細な『何か』が好きなんです。」

 そう語った、りこ女史の言葉にうなづく。大阪では万人にわかりやすいカジュアルな店やカウンター越しに丁々発止にも見えるフレンドリーな接客が受けやすいし、あるいはそこにも及ばない洗練さにかけるサービス レベルの店が多い中、ラ カンロが表現する繊細さは稀有な存在だ。
そして、ラ カンロはりこ女史のように「よく知らないもの」、「よくわからないもの」が「好き」になるような感性を店と交感しながら楽しむのが一番いいと思う。そこには不確かなネットでの前知識や商業メディアの情報は余計なものなのかもしれない。

 「ラ カンロは感性を交感する場所」。そう思ったし、それができる豊かな感性を持った人々が大阪や日本に増えればもっと楽しくなるだろうな、と思った。

La Kanro 対談写真

仲嶺氏「だからウチはこだわりは持ってますけど、店に来ていただくのに料理とかワインとか器の知識はいらないんです。ただ楽しんでくれれば、嬉しいです。」

 結局、全ての芸術や文化はそこに行き着くのではないだろうか?

PHOTO by Teruo Ukita   TEXT by Masaaki Fujita

La Kanro

〒530-0044
大阪府大阪市北区東天満1-2-3 金屋ビル 1F
TEL:06-6242-8586
火〜土 18:00〜
日 12:00〜
月曜休み