イタリアン

RiVi
リヴィ

シェフ
山田  直良

ソムリエ
旅田  裕士

写真:リヴィ

ラ リサータからリヴィへ 山田シェフの移店

看板氏写真

2017年11月、大阪八尾市から靭公園にほど近い大阪市内のレストラン激戦区へと移店した山田直良シェフ。
店名も「LA RISATA(ラ リサータ)」から「RiVi (リヴィ)」へと変更し、料理も以前のイタリアンをベースにしたトラットリアの料理から、より自由度を増したイノヴェーティブ・フュージョンレストランへと舵を切っている。
移店以来、山田シェフの才気溢れる料理の表現力と、スマートで居心地の良さを感じさせるソムリエ 旅田裕士さんの接客で、リヴィはガストロノミーレストランのオープンが増えつつある大阪の中でもひときわ輝く存在へとなりつつある。今回は、そんなお二人が今目指しているレストランづくりを紹介したくて取材を行った。

筆者「リヴィはお二人の個性の融合が素敵な空気感を生み出しているレストランですね。お二人の出会いって、いつ頃なんですか?」

旅田「僕がホールスタッフをしていた大阪のカフェで、山田が調理人として働いていたのが出会いです。僕が23歳で彼が22歳の頃でした。」

筆者「かなり若いころからのお知り合いなんですね。」

山田氏・旅田氏写真

旅田「一緒にそのカフェで働いたのは数か月だけだったんですけど、次第に二人で食事にいくような間柄になりました。その数年後、彼が京都のトラットリアで働きだしてからも、サービスマンとして誘われて、その店で実際、働いたり。そのあと僕は東京の店に就職し、彼はいったんイタリアへ修行に行ったんです。でもその後も縁が続いていて、彼が修行から帰ってきて働きだした大阪のビストロ 『ル ヌー パピヨン』に僕が東京から帰省したついでに食べに行くと、今度は彼の方が勤務先の東京の店に食べに来てくれたりして。そうやってずっと付き合いは続いてました。」

筆者「もうずっと仲良しだったんですねー(感心)。」

旅田「いやいや(笑)、連絡なんてすごいまれだったんですよ。」

筆者「山田シェフはカフェ時代や京都で働いていたときから旅田さんをサービスマンとして注目していた?」

山田「いや、一切見てなくて(笑)。初めて見たのは彼が東京のイタリアン、『リストランテ山崎』でサービスしていた時なんです(笑)。」

筆者「じゃあ、そのときのサービスに惚れて、いずれは一緒に店をやりたいと?」

山田「いやそれも一切思っていなかった(笑)。でも八尾から移転を考えだしたぐらいに、レストランをやるにあたって、当然サービスのトップを探さなければいけないわけなんですけど、その時は、旅さんの顔しか思い浮かばなかった。」

料理写真

旅田「(誘いがあったとき)最初は冗談かと思った(笑)。」

独立を将来考えていたとしても、若い修業時代はそれぞれ自分のことで精いっぱいで、意外と将来のスタッフやパートナー探しを考えている余裕はないのかもしれない。それにしても2人の関係は幼馴染みのようで、大人になってからの再会が恋愛に発展したかのようなストーリーを感じて、とても興味深かった。

料理写真
鰻の蒸し焼き (卵・胡瓜・薬味)

移店の理由

山田氏写真

筆者「八尾のトラットリア時代に終止符を打って、ソムリエ旅田さんを誘い、2017年11月大阪市内にてレストラン『RIVI(リヴィ)』としてオープンするわけですが、何か移店のきっかけや、理由ってあったんですか?」

山田「八尾をオープンしてから徐々に、でしょうか。でも、あるきっかけで自分の料理を客観的に見る機会があったんです。それは今まで自分が習ってきた料理をそのままやってただけで、結局はどこの店かわからない料理でした。そのとき、『これじゃ人を(八尾まで)呼べないな』と気づいた。僕には名店で働いた経験もなければ技術も知識もそんなに深くない。そんな料理人の店に誰が食べに来てくれるんやろ?と。そう考えだしたら、少しずつ自分の料理が変わりだしました。もっともっと今まで自分がやったことのない料理を作りたいと思うようになってきたんです。そして次第に自分のオリジナリティを表現したいと思うようになってきて、そう思ったら、あの箱(リサータ)ではすぐに限界を感じました。」

筆者「結構最初のころから考えだしたんでしょうか。」

山田「リサータは結局トータルで5年半やったんですけど、オープンして2~3年でもう移転を考えだしました。焼鳥市松の竹田さんにも、ことあるごとに『いつ(市内に)でてくるん?』って。(笑) 僕が本当にやりたい料理を実現するためには移店が必要だってことを、竹田さんは見抜いていたんだと思います。」

筆者「でも、山田さんの地元である八尾から大阪市内への移店って、ある意味、今の流行りの逆をいってますよね。全国的なガストロノミーの流れとして、東京への一極集中と共に、地産地消や地方創生をテーマにした地方色あふれるレストランが全国に増えてきて、それが今、評価されている。リヴィの前身であるリサータも八尾近郊の伝統野菜や畜産物を使った料理をコンセプトに掲げて、そこに対する一定の評価も得ていた。それが何故、今、〝大阪市内″という都市部への移店へ? 八尾でのガストロノミーの追求という選択肢はなかった?」

山田「もちろん八尾近郊の生産者の方々の協力もあって、僕自身それが心の支えにもなっていたんですけど、全国的にそういう地方ガストロノミーの店が増えてきたこともあって、僕じゃなくてもいいんじゃないか?って、だんだん思えてきた。それに八尾って地方っていうよりも大阪の都市郊外って感じの街なんですよ。そういうとこからも自分のやりたい料理を実現するための移店は都市にでようと。」

筆者「都市といえばなんですけど、僕なんかが常日頃思っているのは、大阪って都市は都市なんだけれど、都会なの?って。そんな疑問が常にあって。もちろん日本国内で指折りの経済圏なんだけれど、リヴィさんなどが目指しているようなガストロノミーを楽しむ文化や風潮はまだまだ遅れている都市なんじゃないのかなって?だから都市は都市なんだけれど都会じゃないな、とか考える時がある。言葉の定義とは無関係なんだけれど。

特に旅田さんは東京でも働いて、京都も奈良も経験しているから聞きたいんですけど、大阪ってどう見えますか?お客さんの違いみたいなのって何か感じますか?」

旅田「もちろん、すばらしいお客様にうちは恵まれていると思います。しかしやはり東京のほうが、社会の中にレストラン文化がしっかりと存在するんだな、って実感できる機会は確かに多かったと思います。また、企業様の御接待にしても著名人の御来店にしても、『この人の心の中に、この店があるんだな』って思える機会が度々あって・・・そういう時はやはり、やりがいを感じれるし、社会と自分自身の結びつきや、自分の職業の社会への役割を再認識することができます。」

山田氏写真

筆者「シェフは?」

山田「僕は大阪も結局、地方の一つだと思ってますから、市内に出たからといって、自分の料理がすぐに認められるわけではないし、集客的にも、そんなに甘くないのは分かってました。想像以上に厳しかったけど(笑)。 でもレストランに人を呼ぶっていうこと自体は、八尾の時も今も結局同じことだ、って気づいたから。」

筆者「なるほど、日本全国あるいは世界を集客のターゲットにすれば結局、関係ないんだ、と。」

山田「目標は海外の方と国内の方とで、半々ぐらいでホールが埋まればな、と思っています。」

自分は『何』でもなかった

筆者「先ほど(集客が)想像以上に厳しかった。とおっしゃっていましたけど、大阪でオープンして、すぐに予約が取れなくなるフレンチやイタリアンってあまり聞きませんよね。やはり時間がかかるものなのでしょうか?」

山田「そうですね。今は時間がかかろうがなんだろうが、僕はコツコツやるしかないと思っています。嘘だけはつきたくないし、自分のやりたいことだけやろうって、最近また覚悟を決めた感じです。そのためには時間もお金もかかると思うんですけど、そのために自分は八尾から出てきたんだと。」

 
旅田氏写真

筆者「そこまで思える原動力って何?」

山田「これは昔話になるんですけど、学生時代の僕は、自分が『何』でもなかったんです。みんながやることをやる。みんなが行くとこに行く。でも料理をやりだしてから、自分の中に『自我』が起きだしてきたんです。それが今もずっと続いている状態です。」

【料理】=【自我】と言い切る山田シェフ。【料理】=【アイデンティティ】と言われるよりも山田シェフの強い信念を言葉に感じたし、オーナーシェフに相応しいというか、あってほしい猛々しいエゴのようなものも感じる。今はそういう店が少なくなってきた。

筆者「けんかとかする時もありますか?」

山田「ありますよ!(笑)。僕もすぐ(旅田に)いろいろ言うてまうしね。」

旅田「僕は後で。サービスマンなので、その場での(感情の)起伏は無しで。でも、どうしたらもっと良くなるんやろ?もっと良くなるんやろ?と、そればっかり考えています。」

次世代へのメッセージ

内観写真

筆者「リヴィという店を通して何かいろんなメッセージを受け取ったような気がします。」

山田「僕が常に思っているのは、この店自体が次世代へのバトンやと思っています。僕らのような職業はAIや人口減少に関わらず、ほっといても減ってくると思うんです。今の時代、大企業や資本家の出資でもない限り、個人経営でレストランをやるっていうのは、相当しんどい。『でも、やればできるんだよ』って、バトンを繋げる想いでかたちを作って、次世代に渡してあげないと、と思いながらやっています。僕もそんなかっこいい上の世代の人たちを見てきたから。

筆者「旅田さんは?」

旅田「僕はレストラン文化の素晴らしさを、世の中にもっともっと伝えていければいいな、と思っています。こんな素晴らしいレストラン文化を知っているのもまだまだ一握りの方々。また、僕自身若いころに『レストランの花形はサービスマンだ』って感じたから今がある。少しでも多くの人たちにそういう楽しさも感じていただければ、と思っています。」

ある実験結果によると、対話の約6割は言葉よりも雰囲気で伝わるという。お二人の空気から伝わってくるそんな非言語的メッセージは、温和な彼らが発する言葉そのものよりも、さらに強く、店づくりや業界の未来に対する想いを感じさせるものだった。移店は結果ではなく過程である。あるいはシェフの気持ちを汲み取れば、移店などの事前情報は必要ない、まったく新しく誕生したレストランだと思ってもらいたいのかもしれない。未来を見つめるお二人の、これからの進化に目を離せない。

PHOTO by Teruo Ukita   TEXT by Masaaki Fujita

RiVi

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TEL:06-6136-6830
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不定休