フレンチ

Hotel de
YOSHINO

オテル・ド・ヨシノ

シェフ
手島  純也

写真:オテル・ド・ヨシノ

Guide

歯科医
山元 健太

高校時代より食べ歩きをライフワークにする生粋の食道楽。大阪、東京を中心に繰り返すフレンチ行脚も早30年。気に入ったレストランにはとことん通い詰めるスタンスで、穏やかな物腰とはウラハラに、核心を突く意見に敬礼するシェフも多い。

写真:山元 健太

古典フレンチを牽引する新世代の旗手

和歌山の県民交流プラザ・ビッグ愛の最上階に構える「オテル・ド・ヨシノ」は、ミシュランガイドで1ツ星を獲得したパリの「ステラマリス」オーナー・吉野建氏が展開するフランス料理店。同店の料理長である手島純也シェフが体現する料理は、現代フレンチの潮流が北欧やスペインの流れを汲むガストロノミーだとすれば、その真逆を突き進むクラシック。しかし、シェフが独自に構築する世界観は、古典フレンチを新たな領域へと昇華させていると評判だ。

僕にとっては奇跡のレストラン

Hotel de YOSHINO写真

 その世界観に魅せられる一人、山元健太さんが「オテル・ド・ヨシノ」に初めて訪れたのは2011年の7月。吉野氏の店として名を馳せていたことが来店の動機だったが、料理を作るのは吉野氏ではなく、氏の薫陶を受けた若手シェフ。当初の期待値は決して高くなかった。

しかし、サーブされたオコゼのファルシを食べて、その予想は見事に裏切られる。背開きにしたオコゼの中に帆立のすり身やオマール海老が入り、ビスクがかかった全体のマリアージュに感動を覚えたのだ。年を重ねれば重ねるほど、食事で感動する機会は減っていくもの。久しぶりの感動が忘れられず、自宅に戻ってすぐ、翌月の予約を入れた。

すると、翌月のテーブルではさらなる感動が待っていた。熊野牛のコンソメスープが “ダブル” ではなく “トリプル” まで濃縮されて登場したのだ。

山元氏写真

「昔はレストランのコースに必ずスープがあって、コンソメかポタージュがお決まりでした。でも今はコンソメどころか、スープを出すお店が少ない。そんなときにあのコンソメを出されたので…」
口いっぱいに広がる濃厚なコクとともに、レストランの原体験を思い出させたのだった。

子どもの頃、家の食卓では和食が中心。西洋料理はハレの日のごちそうで、阿倍野の「グリル マルヨシ」や梅田の「グリル モリタ」へ連れていってもらうのが楽しみだったという山元さん。フルコースのフランス料理を初めて口にしたのは16歳のとき。父親が贔屓にしていたロイヤルホテル(現・リーガロイヤルホテル) の「ガーデンルーム」でのことだった。その時の味覚と楽しさが忘れられず、以来大学時代はアルバイトをしては給料を握り締め、フランス料理の食べ歩きを繰り返した。メモリアルな手札ではなく、自然と“食べること” を目的にレストランへ足を運ぶようになり、外食好きの素養が培われていった。

 
手島シェフ写真

それから約30年。山元さんがレストラン選びで大切にしているのはシェフの情熱。とりわけ、食後のシェフとの談笑は、考えていることや料理への取り組み方に触れられるから欠かせない。「僕の浅はかな知識と経験では計り知れない想いを感じられるうえに、食に対する自分の考え方も成長できるから」と、手島シェフへ真っ直ぐ視線を向ける。

料理写真
仔猪のヴォロヴァン。折りパイ生地の中には、和歌山産猪のモモ肉を赤ワインと血で煮込んだもの、
猪モモ肉のロースト、フォアグラ、トリュフ、リードヴォ、鶏のトサカ、鶏肉のクネルなどが詰め込まれている

作り手も食べ手もブレない。そして料理は深化する

 
手島シェフ写真

 手島シェフいわく、フランス料理の歴史を遡っていくと、大きく2つに分かれる。1つは地方ごとに息づく郷土料理。もう1つは、貴族や王様のために作られた料理。つまり、予算関係なく“美味しさ”を追求したもの。後者は今から100年前に構築されて、その通りに作れば絶対に美味しい。しかし、現代とは比較にならないほどカロリーが高いため、その美味しさを残して、どうすれば舌の上で重たく感じさせないかが目下のテーマ。オリジナル料理を創り出すというより、完成されたものをどこまで高められるかに重心を置く。いつも念頭にあるのは、100年前に最高といわれたシェフたちが太鼓判を押すかどうか。ただ、それだけだという。

一方で、山元さんは今回で27回目の来店になる。「手島さんの料理を食べるのが目的」と、大阪から往復4時間かけて熱心に通い詰めるその存在について、シェフは「絶対に『旨い』と言わせたいお客様の一人」と断言する。

初めてのお客ならその日用意するコース料理(=プレタポルテ)だが、山元さんのような常連客なら好みが分かる。岸田氏写真店内写真「そのストライクゾーンにアジャストしていくのは料理人として当たり前。おまかせなので、個人の顔を想像しながら作るのでオートクチュール化するんですよ」とシェフ。つまり、1回のディナーは、作り手と食べ手が一球入魂の皿を介して交えるコミュニケーションであり、常に真剣勝負というわけだ。

「手島さんはブレずに信念を貫く方。だから、僕も本気で食べています。手島さんだったらもっと出来るんじゃないの?っていう時もある。ご自身でもまだ完璧じゃないと言っておられますし、そのときは素直に感想をお伝えします。手島さんは『悔しくて眠れない』とおっしゃいますけど(笑)」

PHOTO by Teruo Ukita   TEXT by Taro Fukuyama

Hotel de YOSHINO

〒640-8319
和歌山県和歌山市手平2-1-2 和歌山ビッグ愛12F
TEL:073-422-0001
ランチ 11:30~14:00(L.O.)
ディナー 17:30~21:0(L.O.)
月曜・第2火曜休(月曜が祝日の場合、翌日休)